産業廃棄物の金属くずの定義から処分方法まで徹底解説

はじめに
現代社会において、金属くずの適切な処理は環境保護と資源循環の観点から極めて重要な課題となっています。戦後復興期から高度経済成長期にかけて、日本の製造業が急速に発展する中で、大量の金属製品が生産・消費され、同時に大量の金属廃棄物が発生するようになりました。
1970年代の公害問題の深刻化を受けて、1970年に廃棄物処理法が制定され、産業廃棄物の適正処理が法的に義務化されました。2000年には循環型社会形成推進基本法が施行され、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進が国家戦略として位置付けられました。
近年では、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、金属リサイクルの重要性がさらに高まっています。特に目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」において、金属くずの適切な処理と資源循環は不可欠な要素となっています。レアメタルの供給リスクや経済安全保障の観点からも、金属くずのリサイクルは戦略的な意義を持つようになっています。
目次
- 産業廃棄物における金属くずの定義
- 金属くずの区分と分類
- 金属くずの種類と具体例
- 金属くずの処分方法
- 金属くずの処理費用相場
- マニフェスト管理と法的義務
- よくある質問(FAQ)
産業廃棄物における金属くずの定義
法的定義
金属くずは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)において規定された20種類の産業廃棄物の一つです。同法施行令第2条別表第1において、金属くずは「ハンダかす、鉄鋼または非鉄金属の研磨くずおよび切削くずなど」と明確に定義されています。
判定基準
金属くずとして分類される判定基準は以下の通りです。
主成分による判定:構成素材のうち金属が最も多く含まれる場合
業種の制限なし:金属くずを排出する業種に特定の指定はありません
事業活動由来:事業活動に伴って発生した金属廃棄物であること
環境省の通知内容
環境省の通知では「鉄鋼又は非鉄金属の研磨くず及び切削くず等が含まれるもの」として、より詳細な定義が示されています。この定義により、製造業のみならず、医療機関、小売店、オフィスなど様々な事業場から排出される金属廃棄物が金属くずとして扱われます。
金属くずの区分と分類
基本的な区分
金属くずは大きく以下の2つに区分されます。
鉄くず(鉄スクラップ)
- 金属くず全体の約8割を占める主要な区分
- 鉄を主成分とする金属廃棄物
- 磁力選別により他の金属と分離が容易
非鉄金属くず
- アルミニウム、銅、真鍮、ステンレス、レアメタルなど
- 高い付加価値を持つものが多い
- 精密な分別が必要
発生源による分類
分類 | 発生源 | 具体例 |
---|---|---|
自家発生スクラップ | 鉄鋼メーカーの製鋼・加工工程 | 製鋼スラグ、圧延クロップ |
工場発生スクラップ | 製造業の加工工程 | 切削くず、研磨くず、打ち抜きくず |
老廃スクラップ | 建物解体、廃車解体 | 鉄筋、配管、自動車部品 |
品質による分類
銑(せん)くず
- 上銑くず
- 並銑くず
- 可鍛鋳鉄銑くず
鋼(はがね)くず
- 炭素鋼くず
- 低銅炭素くず
- 合金鋼くず
- 雑用鋼くず
金属くずの種類と具体例
製造業で発生する金属くず
加工系スクラップ
- 切削くず(ダライ粉):旋盤作業で発生する螺旋状の金属片
- 研磨くず:研磨作業で発生する微細な金属粉
- 打ち抜きくず:プレス加工で発生する端材
- 新断スクラップ:鉄板切断時の端材
工具系スクラップ
- 摩耗した切削工具
- 破損した手動工具(スパナ、モンキーレンチ等)
- 老朽化した機械部品
建設・解体現場で発生する金属くず
建築系スクラップ
- 鉄筋くず:コンクリート構造物の解体で発生
- 鉄骨くず:建物の骨組み解体で発生
- 配管くず:上下水道配管、ガス配管の撤去
- アルミサッシ:窓枠の交換・撤去
インフラ系スクラップ
- グレーチング(側溝の蓋)
- ガードレール
- 道路標識
インフラ系スクラップ
容器系スクラップ
- ドラム缶:内容物を完全に除去し、内部が確認できる状態
- 一斗缶:塗料、溶剤等の容器
- スチール缶:食品・飲料容器
設備系スクラップ
- 空調設備の配管
- 厨房機器
- ロッカー、キャビネット
医療機関で発生する金属くず
医療機器(X線装置、MRI装置等)
- ベッドフレーム
- 手術器具(使用済み・破損品)
- 薬品保管庫
金属くずの処分方法
リサイクル処理(再生利用率95.8%)
金属くずは産業廃棄物の中で最も高いリサイクル率を誇り、環境省の統計によると95.8%が再生利用されています。
金属回収
目的:廃棄物から有価金属を分離・回収
対象:レアメタル含有製品、電子機器、貴金属含有品
工程:
- 粗選別(磁力選別、比重選別)
- 破砕・粉砕
- 精密選別
- 金属回収
金属精錬
目的:不純物を除去し高純度金属を製造
対象:アルミニウム、銅、鉄鋼等
工程:
- 前処理(洗浄、脱油)
- 溶解
- 精製
- 鋳造
埋立処分
リサイクル不可能な金属くずは最終処分場で埋立処分されます。
安定型最終処分場での処分
- 対象:汚染されていない金属くず
- 特徴:雨水による溶出の心配が少ない
- 処分方法:他の安定型産業廃棄物と混合埋立
管理型最終処分場での処分
- 対象:油類や有害物質で汚染された金属くず
- 特徴:浸出液処理設備を備えた処分場
- 処分方法:適切な前処理後に埋立
有価物としての売却
状態の良い金属くずは有価物として売却可能です:
売却条件
- 異物の混入がない
- 錆や腐食が少ない
- 一定量以上のまとまり
- 輸送費用を考慮した採算性
主な買取対象
銅線(被覆剥離済み)
アルミニウム製品
ステンレス製品
鉄くず(重量鉄)
雑品スクラップ(鉄や他の金属と混合物)
金属くずの処理費用相場
処理費用の基本構造
金属くずの処理費用は以下の要素で構成されます:
処分費用
- 相場:1kg当たり1~40円
- 要因:金属の種類、純度、市況価格
- 地域差:都市部と地方で価格差あり
収集運搬費用
- 基本料金:1回当たり5,000~20,000円
- 距離制料金:1km当たり50~100円
- 時間制料金**:1時間当たり3,000~8,000円
有価物としての金属くず、種類別費用相場
金属の種類 | 処分費用(円/kg) | 備考 |
---|---|---|
鉄くず | 買取価格:40~60円/kg | 有価物として取引された場合 |
アルミニウム | 買取価格:80~150円/kg | 有価物 として取引された場合 |
銅 | 買取価格:600~900円/kg | 有価物 として取引された場合 |
ステンレス | 種類により変動 | 有価物 として取引された場合 |
真鍮 | 買取価格:400~600円/kg | 有価物 として取引された場合 |
コスト削減のポイント
分別の徹底
- 金属種類別の分別
- 異物の除去
- 清掃の実施
量の確保
- 一定量をまとめて処理
- 複数事業所での共同処理
- 定期回収契約の活用
マニフェスト管理と法的義務
コスト削減のポイント
産業廃棄物である金属くずの処理を委託する場合、排出事業者はマニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付が法的に義務付けられています。
交付タイミング
- 収集運搬業者への引き渡し時
- 運搬と処分を別業者に委託する場合は両方に交付
記載事項
- 廃棄物の種類(金属くず)
- 数量
- 運搬先
- 最終処分場所
- 委託業者情報
マニフェストの種類と運用
紙マニフェスト
構成:A票~E票の7枚綴り
流れ:
- A票:排出事業者が保管(5年間)
- B1票・B2票:運搬完了後に返送
- C1票・C2票:中間処理完了後に返送
- D票:最終処分完了後に返送
- E票:最終処分完了後に返送
電子マニフェスト
メリット:
- 事務処理の効率化
- 紛失リスクの軽減
- リアルタイムでの処理状況確認
有価物処理時の注意点
完全有価物の場合
- マニフェスト交付義務なし
- 売買契約書の作成
- 運搬時の管理責任
逆有償取引の場合
- 引き渡しまでは産業廃棄物として扱い
- A票・B1票・B2票のみで運用
- 収集運搬業許可が必要
よくある質問(FAQ)
Q1. 金属くずと一般廃棄物の違いは何ですか?
A1. 発生源によって区別されます。事業活動に伴って発生した金属廃棄物は産業廃棄物の「金属くず」に分類され、家庭から発生した金属廃棄物は一般廃棄物として市町村が処理します。事業系であっても家庭ごみと同様のものは一般廃棄物として扱われる場合があります。
Q2. 金属くずの保管期間に制限はありますか?
A2.廃棄物処理法では産業廃棄物の保管期間について明確な制限は設けられていませんが、適正な保管場所での管理が必要です。屋外保管の場合は飛散・流出防止措置を講じ、定期的な点検を実施する必要があります。
Q3. 小さな金属片でもマニフェストは必要ですか?
A3. 事業活動から発生した金属くずであれば、量に関係なくマニフェストの交付が必要です。ただし、有価物として売却する場合はマニフェストは不要ですが、売買を証明する書類の保管が推奨されます。
Q4. 金属くずに油が付着している場合の処理方法は?
A4. 油が付着した金属くずは以下の方法で処理します:
- 可能な範囲で油分を除去してから金属くずとして処理
- 油分の除去が困難な場合は「汚泥」として処理
- 大量の油が付着している場合は「廃油」と「金属くず」の混合廃棄物として処理
Q5. 金属くずの買取価格はどのように決まりますか?
A5.買取価格は以下の要因で決定されます:
- 金属の種類と純度
- 市場価格(LME価格等)
- 処理の難易度
- 異物の混入状況
- 輸送費用
- 業者の利益率
Q6. 解体工事で発生する金属くずの注意点は?
A6. 解体工事では以下の点に注意が必要です:
- アスベスト含有建材との混合を避ける
- PCB含有機器の適切な分離
- 建設リサイクル法に基づく分別解体の実施
- 特定建設資材廃棄物としての適正処理
Q7. 医療機器から発生する金属くずの処理方法は?
A7.医療機器由来の金属くずは:
- 感染性の有無を確認
- 必要に応じて滅菌処理を実施
- 放射性物質を含む機器は特別な処理が必要
- 個人情報を含むハードディスク等は適切な破壊処理
Q8. 金属くずの運搬時に必要な許可は?
A8.金属くずの運搬には以下の許可が必要です:
- 産業廃棄物収集運搬業許可(都道府県知事許可)
- 有価物として運搬する場合でも古物商許可が必要な場合あり
- 金属くず商許可(条例により必要な自治体あり)
Q9. 金属くずのリサイクル率が高い理由は?
A9.金属くずのリサイクル率が95.8%と高い理由:
- 金属の物理的性質が安定しており、何度でも再利用可能
- 経済的価値が高く、リサイクルによる利益が見込める 磁力選別等による分離技術が確立されている
- 製錬技術の向上により高純度での回収が可能
Q10. 金属くずの適正処理を怠った場合の罰則は?
A10. 違反行為に対する罰則:
- マニフェスト未交付:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 無許可業者への委託:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- 不法投棄:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- 法人の場合は3億円以下の罰金が科せられる場合あり
さいごに
産業廃棄物の金属くずは、適切な知識と処理方法により、環境保護と資源循環に大きく貢献できる重要な廃棄物です。法的義務を遵守し、信頼できる処理業者と連携することで、コスト削減と環境負荷の軽減を両立できます。今後も循環型社会の実現に向けて、金属くずの適正処理とリサイクルの推進が重要な課題となるでしょう。
産業廃棄物の金属くずに関するご質問やお困りごとがございましたら、お住まいの自治体または専門の処理業者にご相談ください。