産業廃棄物の紙くずとは?定義‧区分‧種類‧処分方法を
徹底解説

近年、環境意識の高まりとともに、廃棄物の適切な処理とリサイクルがますます重要視されています。特に「紙くず」は私たちの日常生活や事業活動において最も身近な廃棄物の一つですが、
その扱いについては誤解も多く見られます。どのような紙くずが「産業廃棄物」として扱われるのか、どう処理すべきなのか、正確な知識を持つことが企業のコンプライアンスにとって重要です。
産業廃棄物における「紙くず」の定義から、適切な処分方法、リサイクルの最新事例まで、体系的に解説していきます。本記事では、産業廃棄物における「紙くず」の定義から、適切な処分方法、リサイクルの最新事例まで、体系的に解説していきます。

行政書士:岩田雅紀
『環境系専門の専門行政書士』行政書士岩田雅紀事務所代表
産廃業許可、建設業許可申請を主な業務として取り扱っている。
資格:行政書士 天井クレーン 車両系建設機械 etc
目次
- 産業廃棄物としての紙くずの定義
- 紙くずの区分と分類
- 対象となる業種
- 特別管理産業廃棄物としての紙くず
- 紙くずの種類と具体例
- 紙くずの処分方法
- リサイクル(再資源化)
- 焼却処理
- 埋立処理
- 紙くずのリサイクル推進事例
- 法的コンプライアンスと実務上の注意点
- マニフェスト制度
- 委託契約書
- 違反と罰則
- よくある質問
- まとめ
産業廃棄物としての紙くずの定義
「紙くず」は名前の通り紙のゴミを指しますが、すべての紙ゴミが産業廃棄物として扱われるわけではありません。廃棄物処理法(廃掃法)によれば、産業廃棄物としての「紙くず」は明確に定義されています。
廃棄物処理法における紙くずの定義
廃棄物処理法の第2条において、産業廃棄物としての紙くずは以下の2つに分類されます。
- 特定の業種(建設業、パルプ製造業、製紙業など)から排出される紙くず
- PCB(ポリ塩化ビフェニル)が染み込んだ紙くず
重要なのは、これらの条件に当てはまらない紙くずは、産業廃棄物ではなく「事業系一般廃棄物」として扱われる点です。例えば、一般的なオフィスや小売店から出るコピー用紙や段ボールなどは、特定業種から排出されたものでない限り、産業廃棄物ではありません。
建設業から排出された紙くずであっても、工作物の新築、改築または除去に直接関連しないもの(たとえば現場事務所から出た書類など)は一般廃棄物として扱われることがあります。このような「産業廃棄物か一般廃棄物か」の判断は、廃棄物の適正処理を行う上で非常に重要です。
紙くずの区分と分類
産業廃棄物としての紙くずは、排出される業種や状態によって細かく区分されています。ここでは、産業廃棄物となる紙くずの具体的な区分について詳しく解説します。
対象となる業種
産業廃棄物としての紙くずは、排出される業種や状態によって細かく区分されています。ここでは、産業廃棄物となる紙くずの具体的な区分について詳しく解説します。
建設業 | 工作物の新築、改築または除去により生じたもの | 建材の包装紙、壁紙、現場で使用した図面など |
---|---|---|
パルプ製造業 | 製造工程で発生したもの | 製造過程で出る紙の端材、不良品など |
製紙業 | 製造工程で発生したもの | 裁断くず、端材など |
紙加工品製造業 | 製造工程で発生したもの | 加工中の不良品、端材など |
新聞業 | 新聞巻取紙を使用して印刷発行を行うもの | 印刷くず、裁断くずなど |
出版業 | 印刷出版を行うもの | 製本くず、印刷くずなど |
製本業 | 製本工程で発生したもの | 製本くず、断裁くずなど |
印刷物加工業 | 加工工程で発生したもの | 裁断くず、印刷くずなど |
特別管理産業廃棄物としての紙くず
PCB(ポリ塩化ビフェニル)が染み込んだ紙くずは、排出業種に関わらず産業廃棄物として扱われます。さらに、有害物質を含むもの として「特別管理産業廃棄物」に指定され、より厳格な管理と処理が求められます。
重要な注意点
PCB(ポリ塩化ビフェニル)が染み込んだ紙くずは、排出業種に関わらず産業廃棄物として扱われます。さらに、有害物質を含むもの として「特別管理産業廃棄物」に指定され、より厳格な管理と処理が求められます。
紙くずの種類と具体例
産業廃棄物として扱われる紙くずには、さまざまな種類があります。ここでは、主要な紙くずの具体例と、それぞれの特徴について解説します。
- 印刷くず
新聞業、出版業、印刷物加工業などで発生する、印刷工程 で出る不良品や端材。
インキが付着しているため、再生処 理の際は特別な工程が必要になることもあります。
- 製本くず
出版業や製本業で発生する、本を作る過程で出るくず。表 紙や背表紙の裁断くず、
糊付けの際に発生する余分な紙な どが含まれます。
- 裁断くず
製紙業や紙加工品製造業で発生する、紙を適切なサイズに 切る際に出る端材。
比較的きれいな状態であることが多 く、リサイクルに適しています。
- 建材の包装紙
建設業で発生する、建材を包装していた紙。防水加工され ている場合があり、
リサイクルが難しいケースもありま す。
- 板紙
厚紙や段ボールなどの厚手の紙。建設現場や製造業で使用 される梱包材として発生することが多く、
リサイクル価値 が高いものです。
- 壁紙
建設業で発生する、内装工事に使用した壁紙の端材や廃 材。ビニール加工されていることが多いため、
リサイクル よりも焼却処分される傾向があります。
これらの紙くずは、素材や状態によってリサイクル適性が異なります。例えば、インクや接着剤が多量に付着している紙くずや、ラミ ネート加工されたものは、通常の紙としてのリサイクルが難しく、固形燃料化や焼却処理が選択されることがあります。 一方、裁断くずのような比較的きれいな紙くずは、再生紙の原料として高い価値を持ちます。このように、紙くずの種類によって最適 な処理方法が異なるため、適切な分別と処理が重要です。
紙くずの処分方法
産業廃棄物としての紙くずの処分方法は、大きく分けて「リサイクル(再資源化)」「焼却処理」「埋立処理」の3つがあります。ここで は、それぞれの処理方法について詳しく解説します。
リサイクル(再資源化)
紙くずの最もポピュラーな処分方法が再資源化(リサイクル)です。環境負荷が低く、資源を有効活用できる点で最も推奨される方法 です。
製紙原料化
回収された紙くずを、再び紙の原料として利用する方法です。具体的には以下のような工程を経ます:
- 回収した紙くずを水と苛性ソーダなどと混ぜて、繊維状にほぐす
- 異物やインクを取り除く(脱墨処理)
- 過酸化水素水などで漂白
- 再生パルプとして紙の製造に使用
新聞紙やオフィスペーパーなど、白色度の高い紙になると、印刷用紙として再生されることが多いです。一方、インキが多く付着した ものや塗工紙は、厚紙や段ボールなどの板紙として再生されます。
固形燃料化(RPF)
再生紙の原料として使用できない紙くず(ラミネート紙や感熱紙など)は、プラスチックと混合して固形燃料(RPF: Refuse Paper & Plastic Fuel)に加工されることがあります。これは石炭などの化石燃料の代替として、工場のボイラーなどで使用されます。
リサイクル率の現状
日本の古紙回収率は81.7%、古紙利用率は66.6%(2024年度データ)と世界的に見ても高い水準にあります。特に産業廃棄物とし ての紙くずの再生利用率は77%と高く、リサイクルが進んでいる廃棄物といえます。
焼却処理
再資源化が難しい紙くず(汚れがひどいもの、建設工事で発生した壁紙など)は、焼却処理が行われます。焼却の際には以下のような 点に注意が必要です: 廃棄物処理法に基づく適切な焼却施設で処理する必要があります 大きさや状態によっては、焼却前に裁断や粉砕が必要な場合があります 塩素系の添加物やビニール加工された紙を焼却する場合は、有害物質の発生に注意が必要です 焼却によって発生する熱エネルギーを回収し、発電や温水供給に利用するサーマルリカバリーの取り組みも進んでいます。しかし、資 源の有効活用という観点では、可能な限りマテリアルリサイクル(原料としての再利用)が優先されるべきです。
埋立処理
紙くずは、そのまま最終処分場に埋め立てられることもあります。埋立処理にはサンドイッチ方式とセル方式という手法があります。
サンドイッチ方式
廃棄物を水平にならして敷き詰めた後に覆土で覆い、交互 に積み重ねる方法です。異なる種類の廃棄物を層状に埋め 立てるため、安定した埋立地を形成できます。
セル方式
1日ごとに独立した廃棄物の埋立層を形成する方法です。そ の日に搬入された廃棄物をまとめて埋め立て、覆土するこ とで、衛生的な管理が可能になります。
埋立処理は最終的な処分方法であり、資源の有効活用や環境負荷の観点からは、リサイクルや熱回収を伴う焼却処理が優先されるべき です。実際に、日本では最終処分量を削減する「3R(Reduce, Reuse, Recycle)」の取り組みが推進されています。
紙くず処理方法の比率(産業廃棄物全体)

紙くずのリサイクル推進事例
近年、紙くずのリサイクルを積極的に推進する取り組みが増えています。ここでは、先進的な事例を紹介します。
クローズドリサイクルの導入
クローズドリサイクルとは、排出事業者自身が排出した紙くずを回収‧再生し、再び自社製品として利用する循環型の仕組みです。こ の方法には以下のようなメリットがあります。
- 資源を社内で循環させることで、廃棄物の削減とコスト削減が同時に実現
- 輸送に伴うCO2排出の低減
- リサイクル実績の可視化によるESG情報開示の促進
- 環境配慮型企業としてのブランドイメージ向上
具体的な事例: 教育関連事業を展開するGakkenでは、返品された本や使用済み段ボールを回収‧再生し、新たな出版物の原料として 再利用するクローズドリサイクルを実現しています。年間約180トンの古紙を回収し、再資源化することで環境負荷の低減とコスト削減 を同時に達成しています。
AIやIoTを活用した効率的な回収‧処理
デジタル技術を活用して、紙くずの回収‧分別‧処理の効率化を図る取り組みも増えています。例えば: AIによる自動選別システムの導入(異物混入の検出精度向上) IoTデバイスを搭載した回収ボックスによる排出量のリアルタイム監視 電子マニフェストと連動したシステムによる処理履歴の一元管理 これらの技術を導入することで、人的ミスの低減、処理効率の向上、コンプライアンスの強化などが期待できます。
紙資源のさらなる高度利用
従来は再生困難とされてきた紙くずについても、新たな技術や用途開発により、リサイクルの可能性が広がっています。
- 特殊加工紙(ラミネート紙、感熱紙など)から繊維を回収する技術の開発
- 建設資材(断熱材、吸音材)への再利用
- バイオエタノール製造の原料としての活用
「技術革新により、かつては廃棄するしかなかった紙くずも、価値ある資源として再利用できるようになってきています。企業に は、これらの新技術を積極的に採用し、循環型社会の実現に貢献することが求められています。」
法的コンプライアンスと実務上の注意点
産業廃棄物としての紙くずを適切に管理‧処分するためには、廃棄物処理法をはじめとする関連法規を遵守することが不可欠です。こ こでは、実務上特に注意すべき法的コンプライアンスについて解説します。
マニフェスト制度
産業廃棄物の紙くずを処理業者に委託する場合、「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」の発行が義務付けられています。これは廃棄物 の排出から最終処分までの流れを管理‧追跡するための重要な仕組みです。
紙マニフェスト
従来型の紙ベースのマニフェスト。複写式の用紙に必要事 項を記入し、処理の各段階で控えを保管します。保存期間 は5年間です。
電子マニフェスト
情報処理センター(JWネット)を介して、オンラインで廃 棄物の処理状況を管理するシステム。ペーパーレス化やミ ス防止、事務作業の効率化などのメリットがあります。
マニフェストの不適切な運用(記載漏れ、保存期間違反など)は、罰則の対象となる場合があります。特に紙くずの性状や量、処分方 法などを正確に記載することが重要です。
委託契約書
産業廃棄物の処理を外部業者に委託する場合、書面による「委託契約書」の締結が義務付けられています。契約書には以下の内容を含 める必要があります。
- 委託する産業廃棄物の種類と数量
- 運搬や処分の方法
- 委託料金
- 委託契約の有効期間
- 受託業者の許可番号と許可の有効期限
契約書は、契約終了後も5年間の保存が義務付けられています。適切な業者選定と契約内容の確認は、排出事業者の責任として重要で す。
違反と罰則
廃棄物処理法に違反した場合、厳しい罰則が課される可能性があります。特に注意すべき違反行為と罰則は以下の通りです。
違反内容 | 罰則 |
---|---|
不法投棄 | 5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人は最大3億円の罰金) |
無許可業者への処理委託 | 5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人は最大3億円の罰金) |
マニフェスト不交付‧虚偽記載 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
委託契約書未締結 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
帳簿の未作成‧虚偽記載 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
法令違反は、罰則だけでなく社会的信用の失墜にもつながります。適正な処理を行うことは、企業の社会的責任(CSR)の観点からも 重要です。
実務上のアドバイス
- 処理業者の選定: 許可証の確認、処理施設の現地確認、リサイクル率やコンプライアンス体制の評価など、慎重に選定しまし ょう
- 分別の徹底: 紙くずの種類や状態によって最適な処理方法が異なるため、発生段階での適切な分別が重要です
- 記録の保管: マニフェスト、契約書、処理実績などの記録は法定期間以上保管し、監査や調査に備えましょう
- 社内教育の徹底: 従業員に廃棄物の適正処理に関する教育を行い、意識向上を図ることが重要です
よくある質問
Q1. オフィスから出る紙くずは産業廃棄物ですか?
A1. 基本的にオフィスから出る紙くず(コピー用紙、名刺、チラシなど)は事業系一般廃棄物に分類されます。ただし、特定の 業種(製紙業、印刷業など)のオフィスから出る場合や、PCBが染み込んだ場合は産業廃棄物となります。
Q2. 段ボールは産業廃棄物の紙くずに該当しますか?
A2. 段ボールも紙くず同様、特定の業種(建設業、パルプ製造業、製紙業など)から排出された場合のみ産業廃棄物となりま す。一般的な小売業やオフィスから出る段ボールは事業系一般廃棄物です。ただし、古紙回収業者に資源として引き渡す場合 は、廃棄物処理法の適用外となる「有価物」として扱われることもあります。
Q3. シュレッダーにかけた紙くずの処理方法は?
A3. シュレッダーにかけた紙くずも、基本的な分類は変わりません。特定業種から排出されたものは産業廃棄物、それ以外は事 業系一般廃棄物です。ただし、細かく裁断されているため、リサイクルの際には専用の処理が必要になる場合があります。機密 情報を含む場合は、情報漏洩防止のため専門業者による溶解処理などを検討するとよいでしょう。
Q4. リサイクルできない紙くずの種類は?
A4. 一般的にリサイクルが難しい紙くずには以下のようなものがあります: 防水加工された紙(紙コップ、ワックス紙など) カーボン紙、ノーカーボン紙 感熱紙(レシートなど) 粘着物が付いた紙(粘着テープ、シール台紙) 汚れがひどい紙(油、食品残渣が付着したもの) 複合素材(プラスチックとの貼り合わせ) これらは通常、固形燃料化や焼却処理の対象となります。
Q5. 機密書類の廃棄方法として最適なのは?
A5. 機密文書の廃棄は、情報漏洩のリスクを最小化する必要があります。以下の方法が一般的です: 専門業者による溶解処理(処理証明書の発行が可能) シュレッダー処理後、産廃業者へ委託 機密処理施設への持ち込み(処理過程の立ち会いが可能な場合もある) 処理方法の選択にあたっては、情報の機密レベル、処理コスト、業者の信頼性などを総合的に検討することが重要です。
まとめ
産業廃棄物としての紙くずについて、定義から処分方法まで詳しく解説してきました。ここで重要なポイントを整理します。
重要ポイントのまとめ
- 産業廃棄物の紙くずの定義: 特定の業種(建設業、製紙業など)から排出された紙くず、またはPCBが染み込んだ紙くずのみ が産業廃棄物として扱われます。それ以外は一般廃棄物です。
- 多様な種類: 印刷くず、製本くず、裁断くずなど、さまざまな種類があり、それぞれ最適な処理方法が異なります。
- 処分方法の選択肢: リサイクル(再資源化)、焼却処理、埋立処理の3つの方法があり、可能な限りリサイクルを優先すべきで す。
- 法的コンプライアンス: マニフェスト制度や委託契約書の作成など、法令遵守が重要です。違反した場合は厳しい罰則が科さ れます。
- 新たな取り組み: クローズドリサイクルやデジタル技術の活用など、より高度な資源循環の仕組みが広がっています。
紙くずは、適切に分別‧処理すれば貴重な資源として再活用できる可能性を秘めています。日本は古紙のリサイクル率が世界的にも高 い水準にありますが、さらなる向上のためには、排出事業者、処理業者、消費者がそれぞれの立場で意識を高め、協力していくことが 重要です。 産業廃棄物の適正処理は、企業にとって単なる法令遵守の問題ではなく、環境保全や持続可能な社会の実現に貢献する重要な活動で す。本記事が、紙くずの適切な管理‧処理の一助となれば幸いです。