なぜ今、群馬県で「金属スクラップ規制」が重要なのか
近年、関東地方を中心に「金属スクラップヤード」での火災や、不適切な保管による崩落事故、騒音・振動、油の流出といった周辺環境への悪影響が社会問題化しています。また、盗難金属の故買(売買)防止の観点からも、ヤード運営に対する視線はかつてないほど厳しくなっています。
これまで金属スクラップは、有価物(売れるもの)であれば廃棄物処理法の対象外とされ、比較的自由な保管が可能でした。しかし、この「法の隙間」を埋めるべく、千葉県、埼玉県、茨城県などの近隣県で条例制定が相次ぎ、群馬県においても生活環境保全の観点から規制の包囲網が狭まっています。
本記事では、群馬県でスクラップ業を営む皆様に向けて、「特定再生資源(金属スクラップ等)の屋外保管」に関する規制の全貌と、事業継続のために必須となる対策について解説します。
「うちは昔からやっているから大丈夫」 「簡単な許可なんでしょ?」
もしそうお考えであれば、その認識は非常に危険です。行政処分や事業停止命令を受ける前に、正しい知識と対策を確認しましょう。
目次
- 「特定再生資源」とは何か? 廃棄物との違い
- 群馬県および周辺自治体の規制トレンド
- 【重要】遵守すべき「技術上の基準」詳細解説
- 手続きの流れ:届出と許可
- 違反した場合の罰則とリスク
- 群馬県の業者が今すぐ取り組むべき3つのステップ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:適正処理が最大の営業力になる時代へ
- 「特定再生資源」とは何か? 廃棄物との違い
まず、規制の対象となる「特定再生資源」の定義を明確にします。
- 定義と対象品目
「特定再生資源」とは、本来は廃棄物処理法の対象外である「有価物(売却できるもの)」のうち、屋外に保管することで火災の発生や生活環境への支障が生じるおそれがあるものを指します。
具体的には以下の品目が該当します。
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金属くず(鉄、銅、アルミニウム等)
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プラスチック類
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これらが混合した状態のもの(いわゆる雑品スクラップ)
特に注意が必要なのが、家電製品や機械類が破砕・圧縮された状態の「雑品(ミックスメタル)」です。これらはプラスチックや電池(リチウムイオン電池等)が含まれていることが多く、自然発火のリスクが高いため、重点的な監視対象となっています。
※但し家電製品は特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)により、一般的なスクラップ処理は行えない
廃棄物処理法との線引き
「お金になるからゴミ(廃棄物)ではない」という理屈は、もはや通用しにくくなっています。たとえ有価物であっても、以下の状態であれば行政から「廃棄物」とみなされ、無許可営業として摘発されるリスクがあります。
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野積みされ、長期間放置されている
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土壌汚染を引き起こしている
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選別が不十分で、明らかにゴミが混ざっている
今回の「特定再生資源屋外保管」の規制は、あくまで「有価物として適切に管理されていること」が大前提です。管理がずさんであれば、条例違反以前に、より罰則の重い廃棄物処理法違反(不法投棄・無許可処分)に問われる可能性があります。
群馬県および周辺自治体の規制トレンド
群馬県内の事業者は、県条例だけでなく、各市町村の条例や、近隣県の動向にも注意を払う必要があります。
条例制定の背景
スクラップヤード火災の多発が最大の要因です。特にリチウムイオン電池の混入による火災は消火が難しく、数日間にわたって燃え続ける事例も発生しています。これにより、住民からの通報が増加し、行政も「事後対応」から「事前規制(許可制・届出制)」へと舵を切りました。
規制の基本的な枠組み
多くの条例では、以下の2つの区分で規制が行われます。
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敷地面積による区分
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一定規模(例:100平方メートル)を超える屋外保管を行う場合、事前の「届出」または「許可」が必要。
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保管基準の遵守
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囲いの設置、保管の高さ制限、浸透防止措置など、技術的な基準への適合が義務付けられる。
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群馬県においても、環境省のガイドラインや近隣県の条例をベースにした厳しい指導が行われる傾向にあります。特に「保管場所の囲い」と「積み上げ高さ」については、抜き打ちの立入検査で最もチェックされるポイントです。
【重要】遵守すべき「技術上の基準」詳細解説
ここが本記事の最重要パートです。特定再生資源を屋外で保管する場合、具体的にどのような設備・環境を整えなければならないのでしょうか。主要な基準を解説します。
囲い(フェンス・壁)の設置
外部から保管物がみだりに見えないよう、また崩落を防止するために、保管場所の周囲には囲いを設ける必要があります。
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構造: トタンやブルーシートのような簡易なものではなく、強度のある鋼板やコンクリート壁が求められます。
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高さ: 一般的には2メートル以上など、外部からの視界を遮断し、かつ飛散を防止できる高さが必要です。
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密閉性: スクラップ片が外部に流出しないよう、隙間のない構造であること。
保管の高さ制限(勾配の確保)
「とにかく高く積めばいい」という時代は終わりました。崩落防止のため、厳格な高さ制限があります。
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壁際: 囲いの内側から2メートル以内の範囲は、囲いの高さ以下に抑えること。
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最大高さ: 敷地の境界線からの距離に応じて算出される勾配(例:1:0.5勾配など)を超えてはなりません。
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計算式例:保管高さ ≦ 囲いの高さ +(壁からの距離 × 0.6) など、条例により係数は異なりますが、ピラミッド型に積むことが基本です。
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火災防止・消火設備の設置
雑品スクラップ等の火災リスクが高い品目を扱う場合、以下の対策が必須です。
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区画分け: 品目ごとに適切な間隔(離隔距離)を空けて保管し、延焼を防ぐ。
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温度監視: 積み荷の内部温度を定期的に測定し、自然発火の兆候を掴む。
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消火設備: 消火器だけでなく、大規模なヤードでは散水設備や防火水槽の設置が求められる場合があります。
土壌汚染・水質汚濁防止(油水分離)
スクラップには油分や有害物質が付着していることがあります。これらが雨水によって地下に浸透しないよう対策が必要です。
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床面舗装: コンクリートやアスファルトで舗装し、不浸透措置を講じること。
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油水分離槽(オイルトラップ): 雨水排水経路に設置し、油分が外部へ流出するのを防ぐこと。
騒音・振動対策
重機による作業や、金属の投入音に対する苦情対策です。
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防音壁: 住宅に近い場合は、高さのある防音壁の設置。
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作業時間の制限: 早朝・深夜の作業禁止。
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重機の低騒音化: 低騒音・低振動型の重機の使用。
手続きの流れ:届出と許可
これから事業を始める場合、あるいは既存の事業者が規制に対応する場合の手続きについて解説します。
新規事業者の場合
現在、多くの自治体で、新規に100平方メートル以上の屋外保管所を設置する場合は「事前許可制」となっています。
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事前相談: 事業計画(場所、取り扱い品目、量)を持って自治体窓口へ。
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近隣住民への説明会: 事業開始前に周辺住民への説明会開催が義務付けられるケースが増えています。
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申請書の提出: 図面、土地の権利関係書類、資産に関する書類などを提出。
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現地確認: 担当官による現地チェック。
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許可・操業開始: 許可証が交付されて初めて搬入が可能になります。
注意: 許可が下りるまでの期間は数ヶ月〜半年以上かかることもあります。土地を借りる前に必ず行政書士等の専門家に相談してください。
既存事業者の場合(経過措置)
既に営業している事業者に対しても、条例施行後一定期間内(例:1年以内)に届出や許可申請を行う「経過措置」が設けられるのが一般的です。
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「既存だから関係ない」は間違い: 多くの条例では、既存業者にも技術基準(壁の高さや舗装など)への適合を義務付けています。
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改善命令: 基準に適合していない場合、期限付きの改善命令が出されます。
違反した場合の罰則とリスク
規制を軽視した場合のペナルティは、単なる罰金に留まらず、事業の存続に関わります。
刑事罰(懲役・罰金)
無許可営業や命令違反には、以下のような重い罰則が規定される傾向にあります。
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1年以下の懲役または100万円以下の罰金
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法人への重科(両罰規定): 実行者だけでなく、会社に対しても高額な罰金が科される場合があります。
許可の取消し
最悪の場合、特定再生資源の保管許可だけでなく、併せて持っている「産業廃棄物収集運搬業許可」などの他許可にも影響を及ぼし、事業全体がストップする恐れがあります。
群馬県の業者が今すぐ取り組むべき3つのステップ
条例や規制は「決まってから動く」のでは遅すぎます。生き残る業者はすでに動いています。
自社ヤードの現状把握と法令照合
まず、メジャーを持ってヤードに出てください。
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保管の高さは規定を超えていないか?
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壁からの距離は十分か?
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地面に油染みはないか?
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敷地境界付近にスクラップがはみ出していないか?
これらをチェックし、現状のリスクを洗い出します。
整理整頓と「見せる化」
行政の立入検査で最も心証を悪くするのは「汚いヤード」です。
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品目ごとに整然と積まれている。
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通路が確保されている。
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看板が掲示されている。
これだけで、「管理能力がある業者」とみなされ、指導のトーンが変わることがあります。まずは徹底的な整理整頓(5S)から始めましょう。
専門家への相談と書類整備
条例の解釈は非常に複雑で、自治体ごとに運用が異なります。
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行政書士(産廃・リサイクル専門)
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環境コンサルタント(申請書類の作成代理は行政書士以外認められません)
こうした専門家を交え、必要な届出が漏れていないか、図面と現況が一致しているかを確認してください。また、従業員への教育記録や、在庫管理表などの帳票類を整備することも、コンプライアンスの証明になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 屋根があれば「屋外保管」になりませんか?
A1. 基本的には、屋根があり、かつ三方向以上が壁で囲まれている建物内であれば「屋内保管」とみなされます。しかし、単に屋根があるだけのカーポートのような構造や、シートを被せただけの場合は「屋外」と判断される可能性が高いです。詳しくは管轄の土木事務所や環境課へ確認が必要です。
Q2. 敷地が100平方メートル以下なら何もしなくていいですか?
A2. 届出や許可の対象外となる場合はありますが、火災防止や流出防止といった「管理基準」の遵守は、規模に関わらず求められます。また、騒音や悪臭で苦情が出れば、規模に関係なく指導の対象となります。
Q3. 雑品スクラップの輸出ができなくなると聞きましたが?
A3. バーゼル法の改正等により、汚れたスクラップや混合金属の輸出規制も強化されています。国内で適正に破砕・選別を行う必要性が高まっており、そのための保管基準も厳しくなっています。輸出頼みのビジネスモデルは見直しが必要です。
適正処理が最大の営業力になる時代へ
現在群馬県はまだ条例は制定されておりませんが、近い将来条例が施工される恐れが十分あります。特定再生資源(金属スクラップ)の屋外保管規制は、単なる「締め付け」ではありません。 悪質な業者を排除し、真面目に適正処理を行う事業者が正当に評価されるための環境整備でもあります。
規制対応にはコストがかかります。防音壁の設置、舗装工事、事務手続きの手間…。しかし、これらをコストではなく「事業継続のための投資」と捉えてください。
コンプライアンスを遵守しているクリーンなヤードは、排出事業者(メーカーや解体業者)からの信頼を得やすく、結果として安定した仕入れに繋がります。逆に、規制に対応できないヤードは、今後自然淘汰されていくでしょう。
変化を恐れず、いち早く適正化に舵を切ることが、貴社の未来を守ります。
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