産業廃棄物のゴムくずとは?定義・区分・種類・処分方法を徹底解説

はじめに
産業廃棄物としてのゴムくずの時代背景は、日本の高度経済成長期における大量生産・大量消費の時代と、それに対応するための廃棄物処理法の整備の歴史と深く結びついています。
産業廃棄物としてのゴムくずの時代背景は、日本の高度経済成長期における大量生産・大量消費の時代と、それに対応するための廃棄物処理法の整備の歴史と深く結びついています。
1. ゴムの産業利用の拡大(戦後~高度経済成長期)
- 日本でのゴムの本格的な工業利用は1886年(明治19年)に始まり、空気入りタイヤの発明(1887年)や、その自動車への応用(ミシュラン兄弟)によってゴム産業は大きく発展しました。
- 特に第二次世界大戦後、日本は高度経済成長期を迎え、自動車産業をはじめとする様々な工業分野でゴム製品の需要が爆発的に増加しました。天然ゴムだけでなく、日本合成ゴム(現JSR)の設立(1957年)に代表されるように、合成ゴムの工業的生産も本格化し、ゴム製品の多様化・大量生産が進みました。
- これにより、製品の製造工程や使用済み製品から排出されるゴムくずの量も飛躍的に増大していきました。
2. 廃棄物問題の顕在化と廃棄物処理法の制定(1960年代~1970年代)
- 高度経済成長期において、それまでの清掃法(1954年制定)では対応しきれないほど、事業活動に伴う廃棄物(産業廃棄物)が急増し、汚泥や合成樹脂くず、廃油など新たな種類の廃棄物問題が浮上しました。
- 大量生産・大量消費・大量廃棄の経済構造が進展する中で、ごみの野積みや河川・海洋への投棄が問題となり、ハエや蚊の大量発生、伝染病の深刻化といった公衆衛生上の問題に加え、水俣病などの公害問題も顕在化しました。
- このような背景を受け、1970年の「公害国会」において、清掃法を全面的に改める形で「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(通称:廃棄物処理法)が制定されました。この法律で、廃棄物は「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に明確に区分され、産業廃棄物の処理責任は排出事業者にあることが定められました。
3. ゴムくずの「産業廃棄物」としての位置づけ
- 廃棄物処理法がスタートした1971年(昭和46年)の時点から、ゴムくずは産業廃棄物の19種類の品目の一つとして独立して区分されています。これは、当時からゴムくずが特有の性質を持つ廃棄物として認識され、適切な処理が必要とされていたことを示唆しています。
- 特に天然ゴムくずがこの区分に含まれます。合成ゴムくずは、廃プラスチック類に分類される場合が多いです。
- 当初、産業廃棄物処理施設の規制は「届出制」でしたが、高度成長に伴う産業廃棄物の増大と公害の顕在化を受けて、1991年の改正で処理施設の規制が「許可制」となるなど、法規制は強化されていきました。
4. 最終処分場の課題とリサイクルの推進
- 産業廃棄物の増加に伴い、最終処分場の残余容量のひっ迫が大きな課題となりました。ゴムくずは、燃え殻などと同様に最終処分率が高い品目の一つであり、埋立処分への依存度が高い傾向にありました(ただし、近年のデータでは改善傾向にあります)。
- このため、政府は循環型社会の実現を目指し、廃棄物排出量の削減・リサイクルを推進する方向へと政策を転換していきました。1991年(平成3年)の「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効利用促進法)をはじめ、各種リサイクル法が制定され、ゴムくずを含む産業廃棄物の再生利用の取り組みが進展しました。
このように、産業廃棄物としてのゴムくずの時代背景は、日本の工業化と経済成長に伴うゴム製品の大量生産・消費、それに起因する廃棄物問題の顕在化、そしてそれに対応するための法整備とリサイクルの推進という一連の流れの中で形成されてきました。

行政書士:岩田雅紀
『環境系専門の専門行政書士』行政書士岩田雅紀事務所代表
産廃業許可、建設業許可申請を主な業務として取り扱っている。
資格:行政書士 天井クレーン 車両系建設機械 etc
目次
- 産業廃棄物のゴムくずとは?基本的な定義
- ゴムくずの法的区分と分類基準
- ゴムくずの種類と具体例
- ゴムくずの適正な処分方法
- ゴムくず処理における注意点とコンプライアンス
- FAQ よくある質問
産業廃棄物のゴムくずとは?基本的な定義
法的定義
産業廃棄物のゴムくずは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第2条第4項および施行令第2条において、20種類ある産業廃棄物の一つとして明確に定義されています。
ゴムくずの法的定義:
- 事業活動に伴って発生する天然ゴムを原料とした固形状の廃棄物
天然ゴムと合成ゴムの重要な違い
ゴムくずを理解する上で最も重要なポイントは、原料による分類の違いです。
天然ゴム(ゴムくずに該当)
- ゴムノキ(ヘベア・ブラジリエンシス)から採取される樹液(ラテックス)を加工したもの
- 天然由来の有機化合物
- 業廃棄物分類:「ゴムくず」
合成ゴム(廃プラスチック類に該当)
- 石油を原料とするナフサから人工的に合成された合成高分子化合物
- 石油由来の人工素材
- 産業廃棄物分類:「廃プラスチック類」
この区別は廃棄物処理において極めて重要で、間違った分類は法律違反となる可能性があります。
事業活動に伴う発生条件
ゴムくずが産業廃棄物として扱われるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 事業活動から発生すること
- 天然ゴムを原料とすること
- 固形状であること
- 産業廃棄物施行令で指定された業種から排出されること
ゴムくずの法的区分と分類基準
産業廃棄物20種類における位置づけ
ゴムくずは産業廃棄物20種類の中で、「安定5品目」の一つに分類されています。
安定5品目とは:
- ガラス・陶磁器くず
- ゴムくず
- 廃プラスチック類
- 金属くず
- がれき類
これらは化学的に安定しており、安定型最終処分場での処分が可能な廃棄物です
排出事業者の特定
ゴムくずを排出する主な業種
製造業関連
- ゴム製品製造業
- 自動車部品製造業
- 履物製造業
- 電気機械器具製造業
建設業関連
- 建設工事における天然ゴム製品の撤去作業
- 解体工事での天然ゴム材料の除去
その他の業種
- 研究開発機関
- 医療機関(天然ゴム製医療器具使用の場合)
量的基準による分類
産業廃棄物としてのゴムくずには、量的な下限は設けられていません。事業活動から発生した天然ゴム廃棄物は、その量に関わらず産業廃棄物として適正に処理する必要があります。
ゴムくずの種類と具体例
天然ゴム製品の具体例
工業用途
- 天然ゴム製パッキン・ガスケット
- 天然ゴム製ホース・チューブ
- 天然ゴム製ベルト類
- 天然ゴム製防振材料
建設用途
- 天然ゴム製止水材
- 天然ゴム製シーリング材
- 天然ゴム製防水シート
日用品・医療用途
- 天然ゴム製手袋(医療用・作業用)
- 天然ゴム製靴底材料
- 天然ゴム製マット類
製造工程から発生するゴムくず
一次加工段階
- ゴム練り工程での切断くず
- 成形工程での端材
- 裁断工程での裁断くず
二次加工段階
- 製品加工時の削りくず
- 不良品として排出されるゴム製品
- 検査工程での切り出しサンプル
使用済み製品
- 耐用年数を迎えた天然ゴム製品
- 破損した天然ゴム製部品
- 改修・解体時に撤去される天然ゴム材料
特殊な形態のゴムくず
エボナイトくず
- 天然ゴムを硫黄で高度に加硫した硬質ゴム
- 電気絶縁材料として使用
- 産業廃棄物としては「ゴムくず」に分類
ゴム引布
- 天然ゴムでコーティングされた布製品
- 防水シートや工業用材料として使用
- 天然ゴム部分は「ゴムくず」として処理
ゴムくずの適正な処分方法
処分方法の種類と選択基準
主要な処分方法
リサイクル処理(推奨)
- マテリアルリサイクル
- エネルギー回収
- 路盤材等への再資源化
焼却処理
- 減容化処理
- 焼却灰の有効利用
埋立処分(最終手段)
- 安定型最終処分場での処分
- 前処理(破砕等)後の埋立
リサイクル処理の詳細
マテリアルリサイクル
- 粉砕処理によるゴムチップ化
- 再生ゴム原料としての活用
- 路盤材・舗装材への転用
- セメント原料としての利用
具体的なリサイクルプロセス
- 収集・分別
- 異物除去・洗浄
- 粉砕・チップ化
- 製品化・出荷
リサイクル率の現状
環境省の「産業廃棄物の排出・処理状況等」(令和3年度)によると、ゴムくずのリサイクル率は年々向上しており、埋立処分の割合は減少傾向にあります。
焼却処理のメリット
減容効果
- 体積の大幅な削減(約90%減)
- 運搬コストの削減
- 最終処分場の延命化
エネルギー回収
- 高い発熱量の活用
- 焼却施設での熱エネルギー利用
- 焼却灰の建設資材への転用
処理業者の選定基準
必要な許可
- 産業廃棄物収集運搬業許可
- 産業廃棄物処分業許可
- 適切な処理能力の確保
確認すべき事項
- 処理フローの透明性
- 最終処分先の確認
- 処理実績と信頼性
- 適正な処理費用
ゴムくず処理における注意点とコンプライアンス
マニフェスト制度の遵守
電子マニフェストの活用
- 処理の透明性確保
- 書面管理の効率化
- 法定保存期間(5年間)の確実な履行
記載事項の注意点
- 廃棄物の種類:「ゴムくず」の正確な記載
- 数量・単位の明確化
- 処理方法の指定
委託契約書の重要性
契約書に明記すべき事項
- 廃棄物の種類・性状
- 処理方法の指定
- 処理単価・支払条件
- 緊急時の連絡体制
コンプライアンス強化のポイント
定期的な処理状況の確認
- 処理施設の現地確認
- 処理フローの定期監査
- 最終処分場の状況把握
教育・研修の実施
- 廃棄物管理責任者の育成
- 現場作業員への教育
- 法改正情報の共有
罰則・リスク管理
主な違反行為と罰則
- 無許可業者への委託:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- 不法投棄:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- マニフェスト未交付:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
FAQ よくある質問
Q1. 合成ゴム製品を「ゴムくず」として処分してしまいました。法的な問題はありますか?
A1. はい、法的な問題があります。合成ゴムは「廃プラスチック類」として分類されるため、「ゴムくず」として処理することは廃棄物処理法違反となる可能性があります。直ちに処理業者に連絡し、適正な分類での再処理を検討してください。今後は原料の確認を徹底し、天然ゴムのみを「ゴムくず」として分類するよう注意しましょう。
Q2. 天然ゴムと合成ゴムの見分け方を教えてください。
A2. 外観だけでの判別は困難です。以下の方法で確認できます:
- 製品仕様書の確認**:原料情報を確認
- メーカーへの問い合わせ**:材質について直接確認
- 燃焼テスト**:天然ゴムは特有の臭いを発生(ただし安全に注意)
- 専門機関での分析**:確実な判定が必要な場合
不明な場合は、より厳格な「廃プラスチック類」として処理することを推奨します。
Q3. 小さなゴムくずでも産業廃棄物として処理が必要ですか?
A3. はい、必要です。産業廃棄物には量的な下限が設けられていません。事業活動から発生した天然ゴム廃棄物は、その量に関わらず産業廃棄物として適正に処理する義務があります。ただし、少量の場合は他の同種廃棄物と合わせて効率的に処理することが可能です。
Q4. ゴムくずの処理費用の相場はどの程度ですか?
A4. 処理費用は以下の要因により変動します:
- 地域差:都市部は比較的高額
- 処理方法:リサイクル処理は埋立処分より高額な場合が多い
- 量と頻度:大量・定期処理は単価が下がる傾向
- 前処理の必要性:異物混入状況により変動
一般的な相場は10,000円~30,000円/トン程度ですが、複数の処理業者から見積もりを取得し、適正価格を確認することが重要です。
Q5. リサイクル処理と埋立処分、どちらを選ぶべきですか?
A5. 環境負荷軽減の観点から、リサイクル処理を強く推奨します:
リサイクル処理のメリット
- 資源循環への貢献
- 企業のCSR向上
- 最終処分場の延命化
- 将来的なコスト安定性
埋立処分の課題
- 最終処分場の逼迫
- 環境への長期的影響
- 将来的な処理費用上昇リスク
ただし、コスト面や処理の緊急性も考慮し、総合的に判断することが重要です。
Q6. ゴムくずの保管期間に制限はありますか?
A6. 法的な保管期間の制限はありませんが、以下の点に注意が必要です:
保管基準の遵守
- 適切な保管場所の確保
- 飛散・流出防止措置
- 定期的な点検・清掃
実務上の推奨事項
- 長期保管による劣化の防止
- 火災リスクの軽減
- 定期的な処理による管理効率化
一般的には3ヶ月以内の処理を推奨します。
Q7. ゴムくずとして処理できない物はありますか?
A7. 以下の物はゴムくずとして処理できません:
分類が異なるもの
- 合成ゴム製品(廃プラスチック類)
- ゴム以外の素材が主体の複合材料
危険性があるもの
- 有害物質が付着したゴム
- 爆発性・引火性物質を含むもの
- 感染性廃棄物に該当するもの
特別管理が必要なもの
- アスベストを含有するゴム製品
- PCBで汚染されたゴム
これらは適切な分類での処理または特別管理産業廃棄物としての処理が必要です。
さいごに
産業廃棄物のゴムくずの適正処理は、法的義務であると同時に、持続可能な社会の実現に向けた重要な責務です。天然ゴムと合成ゴムの違いを正確に理解し、適切な処理方法を選択することで、環境保護と法令遵守の両立を図りましょう。不明な点がある場合は、専門の廃棄物処理業者や自治体の担当部署に相談することをお勧めします。適正な廃棄物管理により、事業の持続的発展と環境保護の実現を目指しましょう。