産業廃棄物の鉱さいとは?定義・区分・種類・処分方法を解説

はじめに
日本の鉱業と製鉄業は、明治時代以降の急速な産業発展とともに成長してきました。特に高度経済成長期(1960年代〜1970年代)には、八幡製鉄所や日本鋼管などの大手製鉄会社が次々と設立され、国内の鉄鋼生産量は飛躍的に増大しました。
しかし、この産業発展の陰で深刻な環境問題も発生しました。1960年代の足尾銅山鉱毒事件や、製鉄所からの排煙による大気汚染など、鉱業・製鉄業由来の公害が社会問題となったのです。このような背景から、1970年に公害対策基本法が制定され、1970年代に入ると産業廃棄物の適正処理が法的に義務付けられるようになりました。
現在では、年間約1,077万トンもの鉱さいが国内で発生しており、これは産業廃棄物全体の約2.9%を占める重要な廃棄物となっています。近年は環境への配慮から、単純な埋立処分ではなく、リサイクルや再資源化が積極的に推進されており、鉱さいの再生利用率は93.8%という高水準を達成しています。

行政書士:岩田雅紀
『環境系専門の専門行政書士』行政書士岩田雅紀事務所代表
産廃業許可、建設業許可申請を主な業務として取り扱っている。
資格:行政書士 天井クレーン 車両系建設機械 etc
目次
- 鉱さいの定義と基本概念
- 鉱さいの分類と区分
- 鉱さいの種類と特徴
- 鉱さいが発生する現場と業界
- 鉱さいの処分方法
- 特別管理産業廃棄物としての鉱さい
- 鉱さいのリサイクルと再利用
- 処分時の注意点と課題
- 関連法規と処理基準
- FAQ(よくある質問)
鉱さいの定義と基本概念
鉱さいとは何か
鉱さい(鉱滓)とは、『鉄・ニッケル・クロム・銅などの金属を精錬・製造する過程で発生する副産物や不純物の総称』です。英語では「スラグ(Slag)」と呼ばれ、高温炉や電気炉内で生成される炉かすの一種として分類されます。
ちなみに私は『のろ』と呼んでいました。
鉱さいは廃棄物処理法において『産業廃棄物の20種目の一つ』として明確に定義されており、事業活動に伴って発生する廃棄物として適切な処理が義務付けられています。
法的位置づけ
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)第2条第4項に基づき、鉱さいは以下のように定義されています:
- 鉱物の掘採に伴って生じる鉱さい
- 製鉄、製鋼及び圧延業から排出される鉱さい
- その他の金属製錬業から排出される鉱さい
鉱さいの分類と区分
鉱さいは発生源と成分によって、以下のように体系的に分類されます。
主要分類
A. 金属製造工程起源スラグ
製鉄・製鋼・非鉄金属精錬などの金属製造工程で発生するスラグ
B. 廃棄物加熱溶融起源スラグ
ごみ焼却施設や汚泥処理施設で発生する溶融スラグ
鉱さいの分類と区分
区分 | 条件 | 処理方法 |
---|---|---|
普通産業廃棄物 | 有害物質が基準値以下 | 管理型最終処分場での処分が可能 |
特別管理産業廃棄物 | 有害物質が基準値以上 | 遮断型最終処分場での厳格な処分が必要 |
鉱さいの種類と特徴
『鉄鋼スラグ』
高炉スラグ
発生工程: 高炉での製鉄過程
主成分:
- CaO(酸化カルシウム):約40-45%
- SiO2(二酸化ケイ素):約30-35%
- Al2O3(酸化アルミニウム):約10-15%
細分類:
- 高炉水砕スラグ: 溶融状態から急冷水砕されたガラス質スラグ
- 高炉徐冷スラグ: 自然冷却により結晶化したスラグ
製鋼スラグ
発生工程: 鋼製造過程(転炉・電気炉)
主成分:
- CaO:約45-55%
- SiO2:約10-20%
- FeO(酸化鉄):約15-25%
細分類:
- 転炉系スラグ: 転炉での製鋼過程で発生
- 電気炉系スラグ: 電気炉での製鋼過程で発生
『非鉄金属スラグ』
銅スラグ
発生工程: 銅精錬過程
特徴:
- 高い比重(約3.5-4.0)
- 優れた耐久性
- 黒色から暗緑色の外観
フェロニッケルスラグ
発生工程: ニッケル精錬過程
特徴:
- MgO含有量が高い(約30-35%)
- 軽量骨材としての利用に適している
亜鉛スラグ
発生工程: 亜鉛精錬過程
特徴:
- ZnO(酸化亜鉛)を含有
- セメント原料としての利用が主流
『その他のスラグ』
鋳物スラグ
発生工程: 鋳造工程
主な構成要素:
- 鋳物砂(シリカサンド等)
- 溶解カス
- 金属酸化物
鉱さいが発生する現場と業界
主要発生業界
製鉄業・鉄鋼業
- 高炉: 銑鉄製造時に高炉スラグが発生
- 転炉: 製鋼時に転炉スラグが発生
- 電気炉: スクラップ溶解時に電気炉スラグが発生
年間発生量:約3,000万トン(国内最大の鉱さい発生源)
非鉄金属製造業
- 銅精錬所: 銅スラグ年間約100万トン
- ニッケル精錬所: フェロニッケルスラグ年間約150万トン
- 亜鉛精錬所: 亜鉛スラグ年間約50万トン
その他の関連業界
- 輸送用機械器具製造業: 鋳物廃砂として発生
- 窯業: セラミック製造過程で発生
- ゴム製造業: 加硫工程で微量発生
- 廃棄物処理業: 焼却・溶融施設で溶融スラグとして発生
鉱さいが発生する現場と業界
地域 | 条主要発生源 | 年間発生量(万トン) | |
---|---|---|
関東地方 | 京浜工業地帯の製鉄所 | 約400 |
中部地方 | 東海工業地域の製鉄所 | 約350 |
近畿地方 | 阪神工業地帯 | 約200 |
九州地方 | 北九州工業地帯 | 約250 |
鉱さいの処分方法
最終処分場での処理
管理型最終処分場
対象: 有害物質が基準値以下の鉱さい
設備要件:
- 遮水シート等による遮水設備
- 浸出液集排水設備
- 浸出液処理設備
- ガス処理設備
処分費用: 約15,000-25,000円/トン
遮断型最終処分場
対象: 特別管理産業廃棄物に該当する鉱さい
設備要件:
- コンクリート製等の遮断構造
- 二重遮水システム
- 継続的な監視体制
処分費用**: 約50,000-80,000円/トン
中間処理
定化処理
有害物質の溶出を抑制するため、セメント固化や薬剤処理を実施
選別処理
磁力選別や比重選別により、有価物の回収と有害物質の除去を実施
特別管理産業廃棄物としての鉱さい
判断基準
以下の有害物質が基準値を超える場合、特別管理産業廃棄物に分類されます:
有害物質 | 判定基準(mg/L) |
---|---|
アルキル水銀化合物 | 検出されないこと |
水銀又はその化合物 | 0.005以下 |
カドミウム又はその化合物 | 0.09以下 |
鉛又はその化合物 | 0.3以下 |
六価クロム化合物 | 1.5以下 |
ヒ素又はその化合物 | 0.3以下 |
セレン又はその化合物 | 0.3以下 |
特別管理産業廃棄物の処理要件
管理責任者の設置
- 資格: 特別管理産業廃棄物管理責任者講習会修了者
- 業務: 処理計画策定、委託業者選定、マニフェスト管理等
処理委託要件
- 特別管理産業廃棄物収集運搬業許可業者への委託
- 特別管理産業廃棄物処分業許可業者への委託
- 特別管理産業廃棄物管理票(マニフェスト)の交付
鉱さいのリサイクルと再利用
リサイクル率と動向
鉱さいの再生利用率は93.8%(令和2年度実績)と、産業廃棄物の中でも非常に高い水準を達成しています。これは以下の要因によるものです:
- JIS規格化による品質標準化
- 建設業界での需要拡大
- 天然資源保護の観点からの推進
主要な再利用用途
セメント原料
使用量: 年間約1,500万トン
特徴:
- 高炉スラグのポゾラン反応を活用
- 普通ポルトランドセメントの30-70%を代替可能
- CO2削減効果:約40%
道路用路盤材
使用量: 年間約800万トン
適用箇所:
- 一般道路の路盤材
- 高速道路の路盤材
- 駐車場舗装材
品質基準:
- CBR値:30%以上
- 修正CBR:80%以上
- 塑性指数:6以下
コンクリート用骨材
使用量: 年間約600万トン
種類:
- 細骨材: 高炉水砕スラグ、銅スラグ
- 粗骨材: 高炉徐冷スラグ、フェロニッケルスラグ
土木材料
- 盛土材: 軽量性を活かした軟弱地盤対策
- 埋戻し材: 管路工事等での利用
- 法面保護材: 緑化基盤材としての活用
農業用資材
ケイカル肥料:
- 主成分:CaO、SiO2、MgO
- 効果:土壌改良、稲の耐倒伏性向上
- 使用量:年間約200万トン
環境改善材料※注目
磯焼け対策:
- 鉄分供給による海藻類の生育促進
- 実証実験で海藻再生効果を確認
北海道、岩手県で実用化
リサイクル技術の進歩
高品質化技術
- 粒度調整: 破砕・分級による最適粒度の実現
- 除鉄技術: 磁力選別による金属分の除去
- エージング処理: 安定化促進による品質向上
新用途開発
- 3Dプリンター用材料: 微粉末スラグの活用
- 吸音材: 多孔質スラグの音響特性活用
- 触媒担体: 表面積の大きさを活かした化学プロセス用途
処分時の注意点と課題
品質管理上の課題
成分のばらつき
原因:
- 原料鉱石の産地による組成差
- 操業条件の変動
- 季節的な変動
対策:
- 成分分析の頻度向上
- 品質管理システムの導入
- 均質化処理の実施
長期安定性の確保
課題:
- 屋外暴露による劣化
- アルカリ骨材反応のリスク
- 金属成分の溶出可能性
対策:
- 長期暴露試験の実施
- 品質基準の厳格化
- 定期的な品質監視
環境安全上の課題
有害物質管理
重金属類の管理:
- 定期的な溶出試験実施
- 基準値超過時の適切な処理
- トレーサビリティの確保
粉塵対策
飛散防止対策:
- 散水設備の設置
- 防塵シートによる被覆
- 作業員の健康管理
経済性の課題
処理コストの上昇
要因:
- 最終処分場の逼迫
- 輸送距離の増大
- 環境基準の厳格化
対策:
- リサイクル率の向上
- 近隣でのリサイクル推進
- 処理技術の効率化
市場価格の変動
影響要因:
- 建設需要の変動
- 天然資源価格の変動
- 法規制の変更
関連法規と処理基準
主要関連法令
廃棄物処理法
正式名称: 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
主要規定:
- 産業廃棄物の定義(第2条第4項)
- 処理基準(施行令第6条)
- 委託基準(施行令第6条の2)
建設リサイクル法
- 対象: 建設工事で発生する鉱さい
- 義務: 分別解体・再資源化
土壌汚染対策法
- 適用: 鉱さい利用サイトでの土壌汚染調査
- 基準: 土壌含有量基準・土壌溶出量基準
JIS規格
主要なJIS規格
JIS番号 | 規格名 | 対象スラグ |
---|---|---|
JIS A 5011-1 | コンクリート用スラグ骨材-第1部:高炉スラグ骨材 | 高炉スラグ |
JIS A 5011-2 | コンクリート用スラグ骨材-第2部:フェロニッケルスラグ骨材 | フェロニッケルスラグ |
JIS A 5011-3 | コンクリート用スラグ骨材-第3部:銅スラグ骨材 | 銅スラグ |
JIS A 5015 | 道路用スラグ | 各種スラグ |
処理基準の詳細
保管基準
- 保管場所: 飛散・流出防止措置を講じた場所
- 保管量: 許可量以下での保管
- 保管期間: 適切な期間での保管
収集運搬基準
飛散防止: 適切な梱包・被覆
混合禁止: 他の廃棄物との混合禁止
積替え保管: 許可を受けた施設での実施
処分基準
最終処分: 管理型又は遮断型最終処分場での処分
再生利用: 環境大臣が定める基準に適合した利用
FAQ(よくある質問)
Q1. 鉱さいと他の産業廃棄物との違いは何ですか?
A1. 鉱さいは金属精錬・製造過程で発生する特殊な産業廃棄物です。主な違いは以下の通りです:
発生源: 金属精錬・製造工程に限定
成分: 金属酸化物が主成分
- リサイクル率: 93.8%と非常に高い
- 用途: 建設材料として幅広く利用可能
- 規格: JIS規格が制定されている
Q2. 鉱さいが特別管理産業廃棄物になる基準は?
A2. 以下の有害物質が判定基準を超える場合に特別管理産業廃棄物となります:
重要なのは『アルキル水銀化合物は検出されないこと』が絶対条件で、その他の重金属類(水銀、カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、セレン)については各々の基準値以下である必要があります。基準値超過の場合は、遮断型最終処分場での処分が必要となり、処分費用も大幅に高くなります。
Q3. 鉱さいのリサイクル用途にはどのようなものがありますか?
A3. 鉱さいの主要なリサイクル用途は以下の通りです:
建設分野:
- セメント原料(年間約1,500万トン使用)
- コンクリート用骨材
- 道路用路盤材
- 盛土材・埋戻し材
農業分野:
- ケイカル肥料(土壌改良剤)
- 稲作用肥料
環境分野:
- 磯焼け対策材(海藻再生)
- 緑化基盤材
これらの用途により、天然資源の保護とCO2削減に大きく貢献しています。
Q4. 鉱さいの処分費用はどの程度かかりますか?
A4. 鉱さいの処分費用は含有する有害物質の濃度によって大きく異なります:
普通産業廃棄物の場合:
- 管理型最終処分:15,000-25,000円/トン
- リサイクル処理:5,000-15,000円/トン
特別管理産業廃棄物の場合:
- 遮断型最終処分:50,000-80,000円/トン
- 特別処理:30,000-60,000円/トン
運搬費用は距離によって変動しますが、通常10-20円/トン・kmが目安となります。
Q5. 鉱さいを自社で処理することは可能ですか?
A5. 自社での処理は限定的な場合のみ可能です:
可能なケース:
- 自社敷地内での一時保管(基準に従って)
- 破砕・選別等の中間処理(許可取得が必要)
- 自社使用目的でのリサイクル(品質基準遵守)
不可能なケース:
- 最終処分場での埋立処分
- 無許可での他社への譲渡
- 基準を超える長期保管
多くの場合、許可を持つ専門業者への委託が最も安全で確実な方法です。
Q6. 鉱さいの品質管理で注意すべき点は?
A6. 鉱さいの品質管理では以下の点が重要です:
化学的性質:
- 重金属含有量の定期検査
- pH値の管理
- 塩化物含有量の確認
物理的性質:
- 粒度分布の管理
- 密度・比重の測定
- 強度特性の確認
安定性:
- エージング処理の実施
- 長期暴露試験の実施
- 品質変化の監視
JIS規格に準拠した品質管理を行うことで、安全で高品質なリサイクル製品を製造できます。
Q7. 海外での鉱さい処理状況はどうなっていますか?
A7. 海外でも鉱さいのリサイクルは積極的に推進されています:
欧州:
- EU指令によりリサイクル率90%以上を目標
- セメント業界での利用が主流
- 環境基準が非常に厳格
アメリカ:
- EPA(環境保護庁)による厳格な管理
- 道路建設での利用が中心
- 州ごとに異なる規制体系
中国:
- 急速な工業化によりスラグ発生量が急増
- リサイクル技術の向上が課題
- 日本の技術導入が進んでいる
日本は世界的に見てもスラグのリサイクル技術と管理体制が最も進んでいる国の一つです。
さいごに
この記事では、産業廃棄物の鉱さいについて、定義から処分方法まで詳細に解説しました。適切な処理とリサイクルにより、環境保護と資源の有効活用を両立することが可能です。鉱さいの処理でお困りの際は、専門業者にご相談することをお勧めします。