産業廃棄物における動物性残さとは?定義・区分・種類・処分方法を徹底解説

前史(廃棄物処理法以前)
近代以前から、動物の死骸や排泄物などは、自然に還るものとして、あるいは堆肥などの形で再利用される形で処理されてきました。しかし、都市化や産業の発展に伴い、その量が増加し、公衆衛生上の問題や環境汚染が顕在化していきます。
産業廃棄物である動物性残さの歴史は、日本の廃棄物処理法制の変遷と深く関わっています。
前史(廃棄物処理法以前)
近代以前から、動物の死骸や排泄物などは、自然に還るものとして、あるいは堆肥などの形で再利用される形で処理されてきました。しかし、都市化や産業の発展に伴い、その量が増加し、公衆衛生上の問題や環境汚染が顕在化していきます。
廃棄物処理法の制定と「動植物性残さ」の登場
日本の現代的な廃棄物処理の歴史は、1970年(昭和45年)に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(通称:廃棄物処理法)が制定されたことから始まります。この法律によって、「廃棄物」が法律で定義され、産業廃棄物の概念が確立されました。
「動植物性残さ」という言葉自体は、廃棄物処理法が施行された直後の1971年(昭和46年)10月25日の施行通知の中で、産業廃棄物の一種として登場します。この時の定義では、主に食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業といった特定の業種から排出される、動植物を原料とした固形状の不要物が「動植物性残さ」とされました。
今回は産業廃棄物の一つ『動物性残さ』について解説します。

行政書士:岩田雅紀
『環境系専門の専門行政書士』行政書士岩田雅紀事務所代表
産廃業許可、建設業許可申請を主な業務として取り扱っている。
資格:行政書士 天井クレーン 車両系建設機械 etc
目次
1. はじめに
2. 動植物性残さの定義とは
- 2.1. 法律上の定義
- 2.2. 固形状廃棄物という条件
- 2.3. 特定業種の条件
3. 産業廃棄物としての動植物性残さの区分
- 3.1. 産業廃棄物の20品目における位置づけ
- 3.2. 産業廃棄物と一般廃棄物の違い
- 3.3. 特別管理産業廃棄物との違い
4. 動植物性残さの種類と具体例
- 4.1. 動物性残さの種類
- 4.2. 植物性残さの種類
- 4.3. 業種別の具体的な発生例
5. 動植物性残さの処分方法
- 5.1. 再資源化(リサイクル)方法
- 5.1.1. メタン発酵によるバイオガス化
- 5.1.2. 飼料化
- 5.1.3. 肥料化(コンポスト化)
- 5.2. 再資源化が難しい場合の処理方法
- 5.2.1. 焼却処理
- 5.2.2. 埋立処分
6. 動植物性残さに関する法的規制
- 6.1. 廃棄物処理法の規制
- 6.2. 保管基準
- 6.3. マニフェスト制度
7. 動植物性残さの適正管理のポイント
- 7.1. 排出事業者の責任
- 7.2. 処理業者の選定方法
- 7.3. 処理コストの目安と削減方法
8. よくある質問(FAQ)
9. まとめ
はじめに
産業廃棄物の中でも特に扱いに注意が必要な「動植物性残さ」。食品製造業などから排出されるこの廃棄物は、適切に処理しなければ悪臭や汚染の原因になりかねません。一方で、リサイクル率が高く資源として有効活用できる可能性も秘めています。
本記事では、動植物性残さの定義から、分類、種類、処分方法まで徹底解説します。産業廃棄物処理に携わる方や、食品製造業、医薬品製造業、香料製造業に従事されている方々にとって必須の知識となるでしょう。
動物性残さの定義とは
法律上の定義
産業廃棄物における動植物性残さとは、廃棄物処理法施行令第2条第4号に定められており、特定の業種の製造工程から排出された、動植物を原料として使用した固形状廃棄物のことです。
この定義において重要なのは「特定の業種」と「固形状廃棄物」という点です。すべての動植物由来の廃棄物が動植物性残さに該当するわけではなく、特定の条件を満たす必要があります。
固形状廃棄物の条件
施行令第2条第4号の文末に「固形状の不要物」とあるように、産業廃棄物に該当する動植物性残さは、あくまで固形状の廃棄物に限られます。液状や泥状で排出されるものは動植物性残さではなく、廃油や廃酸、廃アルカリ、汚泥など別の産業廃棄物として分類されます。
例えば、食料品製造業の製造工程から排出された固形状の廃棄物は動植物性残さですが、同じ工程から排出された液状や泥状のものは別の分類となるため注意が必要です。
特定業種の条件
動植物性残さを産業廃棄物として取り扱わなければならないのは、以下の特定業種に限定されています。
- 食料品製造業(日本標準産業分類による中分類12及び13(小分類135を除く))
- 医薬品製造業(小分類206)
- 香料製造業(細分類2093)
これら以外の業種、例えば飲食店やレストラン、一般家庭から排出される同様の廃棄物は、一般廃棄物または事業系一般廃棄物として扱われます。つまり、同じような廃棄物であっても、排出元の業種によって区分が異なるのです。
産業廃棄物としての動物性残さの区分
産業廃棄物の20品目における位置づけ
産業廃棄物は法律上20品目に分類されており、動植物性残さはその中の一つです。産業廃棄物の20品目は大きく2種類に分けられます。
- あらゆる事業活動に伴って生じる産業廃棄物(12品目)
- 特定の事業活動に伴って生じる産業廃棄物(8品目)
動植物性残さは後者の「特定の事業活動に伴って生じる産業廃棄物」に該当します。そのため、前述した特定業種以外から排出される同様の廃棄物は、産業廃棄物としての動植物性残さには該当しません。
産業廃棄物と一般廃棄物の違い
廃棄物処理法において、廃棄物は産業廃棄物と一般廃棄物に大別されます。産業廃棄物は事業活動に伴って生じた廃棄物のうち法令で定められた20品目に該当するものであり、それ以外の廃棄物は一般廃棄物となります。
動植物性残さの場合、特定業種から排出されたものは産業廃棄物として、それ以外(例:飲食店、家庭)から排出されたものは一般廃棄物として取り扱われます。
例えば、食品製造工場から排出された魚の皮やあめかすは産業廃棄物としての動植物性残さですが、飲食店の調理過程で生じた同様のものは事業系一般廃棄物となります。
特別管理産業廃棄物との違い
産業廃棄物の中でも、爆発性、毒性、感染性などの観点から特に注意を要する廃棄物は「特別管理産業廃棄物」として区分されています。
動植物性残さは通常、特別管理産業廃棄物には該当しませんが、特定の状況(例:特定の感染症に汚染された可能性がある場合など)では例外的に特別管理産業廃棄物として扱われることがあります。そのような場合は、より厳格な管理と処理が求められます。
動物性残さの種類と具体例
動物性残さの種類
動物性残さとは、動物由来の固形状廃棄物を指します。具体的には以下のようなものが該当します:
- 動物や魚の皮
- 肉や魚の骨
- 内臓
- 卵の殻
- 貝殻
- 羽毛
- 魚や獣のあら
- 肉・乳類の加工不良品
これらは主に食料品製造業で発生することが多く、タンパク質が豊富なため腐敗しやすいという特徴があります。そのため、保管には冷蔵・冷凍などの対策が必要です。
植物性残さの種類
植物性残さとは、植物由来の固形状廃棄物を指します。具体的には以下のようなものが該当します:
- 野菜くず
- 果実の皮・種子
- 大豆かす
- コーヒーかす
- 酒かす
- 油かす
- 発酵かす
- 醸造かす
- 薬草かす
- あめかす
- -のりかす
- ジャム製造の絞りかす
- 米・麦などの穀物残渣
これらは食料品製造業や香料製造業、医薬品製造業などで発生します。植物性残さは比較的腐敗が緩やかですが、水分含有量が高いものは臭気が発生しやすいため注意が必要です。
業種別の具体的な発生例
食料品製造業での発生例
- 食肉加工業:骨、皮、内臓など
- 水産加工業:魚のあら、内臓、貝殻など
- 製菓・製パン業:果実の皮、種子など
- 飲料製造業:コーヒーかす、茶かすなど
- 醸造業:醸造かす、酒かすなど
医薬品製造業での発生例
- 漢方薬製造:薬草の抽出後の残渣
- 健康食品製造:素材からエキスを抽出した後の固形物
香料製造業での発生例
- 精油製造:植物から香り成分を抽出した後の残渣
- フレーバー製造:果皮や種子の残渣
発生する事業所によって動植物性残さの性状は様々ですが、いずれも適切な処理・リサイクルが求められます。
動物性残さの処分方法
再資源化(リサイクル方法)
動植物性残さは有機物を多く含むため、再資源化による有効活用が可能です。主な再資源化方法は以下の通りです。
メタン発酵によるバイオガス化
メタン発酵とは、動植物性残さを微生物に分解させて、メタンを主成分としたバイオガスを発生させる再資源化方法です。このバイオガスは発熱量が高く、ガスエンジンや発電設備の燃料として活用できます。
メタン発酵の主なメリットは
- エネルギーとして回収できる
- 温室効果ガスの排出削減につながる
- 発酵残渣も肥料として利用可能
特に食品廃棄物のエネルギー利用として注目されている方法です。
飼料化
飼料化とは、動植物性残さを加工して動物の飼料を作り出す再資源化方法です。産業廃棄物の減量だけでなく、飼料自給率の向上にも寄与します。
飼料化を行う際には以下の点に注意が必要です。
- 異物の除去や品質維持
- 衛生管理の徹底
- 飼料安全法の基準への適合
- 安定した品質の確保
特に、動物由来の残さを家畜飼料として利用する場合は、病原体感染のリスクを考慮した適切な処理が求められます。
肥料化(コンポスト化)
肥料化とは、動植物性残さを微生物に分解・発酵させて肥料に変換する再資源化方法です。他の方法と比べて比較的簡単に再資源化できるのが特徴的で、近隣に農地がある場合に特に有効です。
肥料化の主なメリットは:
- 設備投資が比較的少ない
- 農地の土壌改良に貢献
- 化学肥料の使用量削減につながる
肥料化の過程では発酵熱により病原菌が死滅するため、衛生的な肥料を得ることができます。
再資源化が難しい場合の処理方法
動植物性残さは再資源化率が高い廃棄物ですが、中には再資源化が難しい場合もあります。そうした場合の処理方法を紹介します。
焼却処理
焼却処理は、その名の通り動植物性残さを焼却して処理する方法です。焼却によって体積を大幅に減らすことができ、高温処理により衛生面での安全性も確保できます。
焼却処理を行う際の注意点:
- 許可を持つ処理施設での処理が必要
- 焼却施設が動植物性残さの処理に対応しているか確認
- 排ガス処理など環境対策が適切に行われているか確認
埋立処理
動植物性残さの埋立処分を行う場合は、管理型最終処分場の利用が必須となります。管理型最終処分場とは、遮水工や浸出水処理施設などが設置された処分場です。
埋立処分の注意点:
- 埋立前に水分調整などの前処理が必要な場合がある
- 管理型最終処分場であることの確認
- 処分場の残余容量の確認
埋立処分は最終的な処分方法であり、資源の有効活用という観点からは優先度が低いため、可能な限りリサイクルを検討することが望ましいでしょう。
動物性残さに関する法的規制
廃棄物処理法の規制
動植物性残さは廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)によって規制されています。事業者は排出する廃棄物を適正に処理する責任があり、違反した場合は罰則も設けられています。
主な法的義務には以下のようなものがあります:
- 廃棄物の適正処理の義務
- 委託基準の遵守
- 処理業者との適正な契約
- 処理状況の確認
保管基準
動植物性残さを事業所内で保管する場合、以下のような保管基準を遵守する必要があります:
- 保管場所には周囲に囲いを設ける
- 飛散、流出、地下浸透、悪臭発散防止措置を講じる
- ねずみや蚊、はえなどの害虫が発生しないようにする
- 保管場所には産業廃棄物の保管場所である旨の表示を行う
- 保管する産業廃棄物の数量が適正な処理に支障のない範囲内となるようにする
特に動植物性残さは腐敗しやすいため、保管中の悪臭対策や衛生管理が重要です。
マニフェスト制度
産業廃棄物の排出事業者は、廃棄物の処理を委託する際にマニフェスト(産業廃棄物管理票)を使用して、廃棄物の流れを追跡・管理することが義務づけられています。
マニフェスト制度の主なポイント:
- 排出事業者は処理業者に廃棄物を引き渡す際、マニフェストを交付
- 処理の各段階で処理業者から返送されたマニフェストを確認
- マニフェスト交付等状況報告書を毎年自治体に提出
- 電子マニフェストの活用も推進されている
適切にマニフェストを運用することで、自社の廃棄物が適正に処理されていることを確認できます。
動物性残さの適正管理のポイント
排出事業者の責任
産業廃棄物の処理責任は、排出事業者にあります。処理を委託した場合でも最終的な責任は排出事業者にあることを認識し、以下のような対応が求められます:
- 廃棄物の適正な分別
- 委託先の許可の確認
- 適正な契約の締結
- 処理状況の確認と記録
特に食品製造業などから排出される動植物性残さは食品衛生上のリスクもあるため、排出段階からの適切な管理が重要です。
処理業者の選定方法
動植物性残さの処理を委託する場合、適切な処理業者を選定することが重要です。選定の際のポイントは以下の通りです。
- 必要な許可(産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物処分業)の確認
- 動植物性残さの処理実績の確認
- 処理施設・設備の確認
- 優良産廃処理業者認定制度の活用
- コンプライアンス体制の確認
特に再資源化を希望する場合は、リサイクル技術や設備を持つ業者を選定することが望ましいでしょう。
処理コストの目安と削減方法
動植物性残さの処理コストは、排出量や処理方法、地域によって異なりますが、一般的には1kgあたり20円~70円程度と言われています。
処理コストを削減するためのポイント:
- 源流対策:製造工程の見直しによる発生量の削減
- 水切り・脱水:水分を減らすことで重量を削減
- 分別の徹底:異物混入を防ぎリサイクル率を向上
- 複数業者からの見積もり比較
- 自治体の補助金制度の活用
処理コストの削減を検討する際も、法令遵守と適正処理の原則は守る必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 飲食店から出る調理くずや食べ残しも動植物性残さになりますか?
A1: 飲食店から排出される調理くずや食べ残しは、事業系一般廃棄物に分類されます。動植物性残さとして産業廃棄物に該当するのは、食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業から排出されるものに限られます。
Q2: 食品製造業から排出される液状の廃棄物は動植物性残さに該当しますか?
A2: 動植物性残さは固形状の廃棄物に限定されます。液状の廃棄物は、その性状に応じて廃油、廃酸、廃アルカリ、汚泥などに分類されます。
Q3: 動植物性残さの保管期間に制限はありますか?
A3: 法律上、明確な保管期間の制限は定められていませんが、動植物性残さは腐敗しやすいため、長期保管は避けるべきです。一般的には数日程度が目安とされ、それ以上保管する場合は冷蔵・冷凍などの対策が必要です。
Q4: 小規模な食品製造業者でも産業廃棄物として処理する必要がありますか?
A4: 事業規模に関わらず、食料品製造業から排出される動植物性残さは産業廃棄物として処理する必要があります。ただし、一部の自治体では、小規模事業者を対象に一般廃棄物として処理を認める特例もあるため、地域の自治体に確認することをお勧めします。
Q5: 動植物性残さを自社で堆肥化して農地に還元することは可能ですか?
A5: 排出事業者が自ら処理する場合、廃棄物処理法の処理基準に従うことが条件ですが、技術的・設備的に可能であれば自社内での堆肥化は可能です。ただし、適切な発酵管理や品質管理が求められるため、専門知識や設備が必要となります。
まとめ
動植物性残さは、食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業から排出される固形状の産業廃棄物として定義されています。その種類は多岐にわたり、動物性残さと植物性残さに大別されます。
処理方法としては、メタン発酵、飼料化、肥料化などの再資源化方法が優先されますが、再資源化が難しい場合は焼却処理や埋立処分が行われます。
排出事業者には廃棄物処理法に基づく様々な法的義務があり、適正な処理を確保するためのマニフェスト制度の遵守も求められます。
動植物性残さは腐敗しやすい特性を持つため、発生から処理までの適切な管理が重要です。処理業者選定の際は許可の確認や実績の評価を行い、信頼できるパートナーを選ぶことが大切です。
今後も法規制の強化や環境意識の高まりにより、より高度な再資源化や環境負荷の少ない処理方法が求められていくでしょう。排出事業者は常に最新の情報を収集し、適正かつ効率的な処理を心がけることが必要です。