産業廃棄物の繊維くずとは?定義から処分方法まで徹底解説

日本の「繊維くず」が産業廃棄物として認識され、その処理が問題となる時代背景は、主に高度経済成長期から1970年代以降に顕著になります。
簡単にまとめると以下のようになります。
- 江戸時代~明治初期:資源の再利用が定着
- 日本では古くから、古着や古布(故繊維)は「ぼろ」として回収され、再利用される文化がありました。明治時代には製紙産業の発展に伴い、故繊維を扱う専門業者が現れ、日本のリサイクルの始まりとも言えます。
- 明治~昭和初期(戦前):繊維産業の発展と故繊維業の確立
- 日本の近代化と共に繊維産業が発展し、それに伴って工場から出る糸くずや布くず(裁落屑)を回収し、原料として供給する「故繊維業者」が成立しました。
- 高度経済成長期(1960年代後半~):大量生産・大量消費・大量廃棄の時代へ
- この時期、日本は経済的に大きく成長し、衣料品の大量生産・大量消費が進みました。それに伴い、廃棄される繊維製品や工場からの繊維くずの量も増大しました。
- 1970年の「廃棄物処理法」制定:この法律で、特定の事業活動から排出される繊維くず(紡績・織布工場から排出される糸くず・布くず、建設工事に伴う畳・木綿くず・じゅうたんなど)が産業廃棄物として定められ、排出事業者に適切な処理責任が課せられるようになりました。これにより、繊維くずの処理が法的な問題として明確に認識されることになります。
- 1970年代後期~:国内繊維産業の海外移転とごみ問題の深刻化
- オイルショックなどを経て、日本の繊維産業は海外へ生産拠点を移すようになり、国内の繊維生産が減少しました。
- 一方で、安価な化学繊維や混紡素材の普及により、衣料品の価格が下がり、消費サイクルが加速。結果として、大量の衣料品が廃棄されるようになり、ごみ問題が深刻化しました。
- この時期、従来の「ぼろ買い」のような回収システムは採算が合わなくなり、一部の地域を除いて姿を消していきました。
- リサイクルへの意識は高まったものの、需要の減少と供給の増加により、故繊維業界は厳しい状況に直面しました。
このように、繊維くずが「産業廃棄物」として明確に認識され、その処理やリサイクルが社会的な課題となったのは、日本の産業構造の変化と大量生産・大量消費の時代への移行、そしてそれに対応する法整備が進んだ時期と重なります。

行政書士:岩田雅紀
『環境系専門の専門行政書士』行政書士岩田雅紀事務所代表
産廃業許可、建設業許可申請を主な業務として取り扱っている。
資格:行政書士 天井クレーン 車両系建設機械 etc
目次
1. 産業廃棄物としての繊維くずとは
- 1-1. 繊維くずの法的定義
- 1-2. 一般廃棄物と産業廃棄物の区分
2. 繊維くずの区分
- 2-1. 排出事業者による区分
- 2-2. 天然繊維と合成繊維の違い
- 2-3. 特別管理産業廃棄物になる場合
3. 繊維くずの種類
- 3-1. 建設現場から排出される繊維くず
- 3-2. 繊維工業から排出される繊維くず
- 3-3. その他の繊維くず
4. 繊維くずの処分方法
4-1. リサイクル
- 4-1-1. マテリアルリサイクル
- 4-1-2. ケミカルリサイクル
- 4-1-3. サーマルリサイクル
4-2. 焼却・埋立処分
- 4-2-1. 管理型最終処分場
- 4-2-2. 遮断型最終処分場
5. 繊維くずの処理における注意点
- 5-1. 排出事業者の責任
- 5-2. マニフェスト管理
- 5-3. 適正な処理業者の選定
6. まとめ
産業廃棄物としての繊維くずとは
繊維くずの法的定義
産業廃棄物の繊維くずとは、廃棄物処理法に基づいて定義されている産業廃棄物20種類のうちの1つです。具体的には、繊維製品の製造業を除く繊維工業(織布・紡績工場など)、または建設業(建物の新築、改築、または除去によって生じたものに限る)から排出される繊維性の廃棄物を指します。
繊維くずには、『木綿くず、羊毛くず、麻くず、糸くず、布くず、綿くず、不良くず』などが該当します。特に、天然繊維から構成される繊維くずが主な対象となります。
例外として、PCB(ポリ塩化ビフェニル)が染み込んだ天然繊維くずは、発生場所を問わず産業廃棄物として扱われ、さらに特別管理産業廃棄物に分類される点にも留意が必要です。
一般廃棄物と産業廃棄物の区分
繊維くずは「業種限定」のある産業廃棄物です。つまり、特定の業種から排出された場合のみ産業廃棄物となり、それ以外の業種から排出された場合は一般廃棄物として扱われます。
例えば、縫製工場など衣料の生産現場から排出される裁ち落としや端切れ(くず繊維)は、産業廃棄物ではなく一般廃棄物として取り扱われます。この区分は排出事業者にとって非常に重要であり、適切な処理方法や手続きが異なるため、正確な判断が求められます。
また、天然繊維でできたものが「繊維くず」に分類される一方、ナイロンやアクリルなどの合成繊維でできたものは「廃プラスチック類」に分類される点にも注意が必要です。
繊維くずの区分
排出事業者による区分
産業廃棄物として扱われる繊維くずを排出する主な事業者は以下のとおりです。
- 建設業(建物の新築、改築、除去に伴って生じたものに限る)
- 繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除く)
これらの業種以外から排出される繊維くずは、一般的に事業系一般廃棄物として扱われます。つまり、オフィスや小売店、飲食店などから排出される繊維くずは、産業廃棄物ではありません。
天然繊維と合成繊維の違い
繊維くずを処理する際に重要なのが、天然繊維と合成繊維の区別です。
- 天然繊維:綿、麻、羊毛、シルクなど自然界に存在する繊維素材
- 合成繊維:ナイロン、ポリエステル、アクリルなど化学的に合成された繊維素材
産業廃棄物における「繊維くず」は基本的に天然繊維を指し、合成繊維は「廃プラスチック類」に分類されます。この区分は処理方法や処分費用に影響するため、正確に分類することが重要です。
実際の繊維製品は天然繊維と合成繊維が混合されている場合も多く、そのような場合は専門の廃棄物処理業者に相談して適切な処理方法を決定する必要があります。
特別管理産業廃棄物になる場合
PCB(ポリ塩化ビフェニル)が染み込んだ天然繊維くずは、特別管理産業廃棄物に分類されます。特別管理産業廃棄物は、通常の産業廃棄物よりも厳しい管理基準が設けられており、特定の許可を持つ処理業者でなければ取り扱うことができません。
PCBは環境中で分解されにくく、生物に蓄積する性質があるため、環境への影響が懸念される有害物質です。PCBが染み込んだ繊維くずは、発生場所を問わず全て産業廃棄物として扱われ、さらに特別管理産業廃棄物として厳格な管理が求められます。
繊維くずの種類
建設現場から排出される繊維くず
建設現場から排出される繊維くずには、以下のようなものがあります。
- 畳
- じゅうたん
- 防音材
- 断熱材(天然繊維製)
- 工事現場で使用された繊維製品の残材
これらは建物の新築、改築、あるいは解体工事に伴って発生した場合に限り、産業廃棄物の繊維くずとして扱われます。ただし、これらに合成繊維が含まれる場合は、廃プラスチック類との混合廃棄物として扱われる可能性があります。
繊維工場から排出される繊維くず
繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除く)から排出される繊維くずには、以下のようなものがあります。
- 糸くず
- 木綿くず
- 麻くず
- レーヨンくず
- 不良くず
- みじん
- くずまゆ
- 落ち毛
これらの廃棄物は、繊維の製造過程で発生するものであり、産業廃棄物として適切に処理する必要があります。一方で、衣服製造業から出る裁ち落としや端切れは、一般廃棄物として扱われる点に注意が必要です。
その他の繊維くず
その他、次のようなケースでも繊維くずが産業廃棄物として扱われることがあります:
- PCBが染み込んだ天然繊維くず(発生場所を問わず全て産業廃棄物かつ特別管理産業廃棄物)
- 災害廃棄物として処理される大量の繊維廃棄物(特例措置として)
これらの特殊なケースでは、通常とは異なる処理方法や手続きが必要となることがあるため、専門家や行政機関に相談することをおすすめします。
繊維くずの処分方法
リサイクル
環境省の調査によると、令和4年度の繊維くずの排出量は89千トンであり、そのうち約58%がリサイクルされています。繊維くずのリサイクル方法は主に以下の3つに分類されます。
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルは、繊維くずをそのまま再利用する方法です。主な方法としては以下があります:
- ウエス化:繊維くずを適切なサイズに切断し、工場での機械の油拭きや清掃用の布として再利用する方法です。
- 反毛化:繊維くずを専用の機械でほぐし、わた状にして再生繊維として活用する方法です。この再生繊維は断
熱材やフェルト、詰め物などに再利用されます。 - フェルト製造:繊維くずを加工してフェルト製品を製造し、防音材や断熱材として再利用する方法です。
マテリアルリサイクルは比較的簡単な設備で実施できるため、多くの現場で活用されていますが、製品の品質が安定しないケースがあるという課題もあります。
ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルは、繊維くずを分子レベルまで分解し、原料に戻して再利用する方法です。主に合成繊維(廃プラスチック類に分類)に適用される手法ですが、一部の天然繊維にも応用されています。
処理の流れとしては、回収された繊維くずを洗浄し、細かく粉砕した後、化学処理を行って元の原料に戻します。この処理をした原料は、新しい繊維やプラスチック製品に再利用されます。
ケミカルリサイクルは様々な製品や廃棄物をリサイクルできる点がメリットですが、プロセスが複雑で他のリサイクル方法と比べてコストが高くなるというデメリットがあります。
サーマルリサイクル
サーマルリサイクルは、繊維くずを焼却して得られる熱エネルギーを回収・利用する方法です。特に、繊維くずに汚れが多く含まれていたり、種類ごとの分別が難しい場合に適した方法です。
代表的なサーマルリサイクルとしては、繊維くずをRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel:固形燃料)化して再利用する方法があります。RPFは石炭や石油といった化石燃料の代替品として、多くの産業で活用されています。
他にも、繊維くずをセメント工場での燃料として利用するなど、熱エネルギーとして有効活用する方法があります。
焼却・埋立処分
リサイクルできない繊維くずは、適切な処理をした上で最終処分されます。環境省の調査では、繊維くずの約14%が最終処分されており、その多くは焼却後に埋立処分されています。
管理型最終処分場
有害物質や有機物の濃度が埋立判定基準を満たしている通常の繊維くずは、管理型最終処分場で処理されます。管理型最終処分場では、廃棄物の分解や有害物質の溶出によるガス・汚水の発生・流出を防止するための設備が整っています。
- 貯留構造物
- 遮水設備
- 集水設備
- ガス排除設備
これらの設備により、環境への影響を最小限に抑えながら廃棄物を安全に処分します。
遮断型最終処分場
有害物質が埋立判定基準値を超えた繊維くずは、より厳格な管理が行われる遮断型最終処分場で埋め立てられます。遮断型最終処分場では、有害物質が外部環境に漏れ出ないよう、以下のような対策が施されています。
- 水分との接触を防止する覆蓋施設
- 腐食防止加工が施された水密性鉄筋コンクリート容器
特にPCBを含んだ繊維くずについては、低濃度の場合でもまず無害化処理を実施する必要があります。この処理には、環境大臣から個別に認定を受けた無害化処理認定事業者、もしくは都道府県知事(一部では市長)からPCB廃棄物に関わる特別管理産業廃棄物の処分業許可を得た事業者に依頼しなければなりません。
繊維くずの処理における注意点
排出事業者の責任
廃棄物処理法においては、「排出事業者責任」の原則が定められており、産業廃棄物を排出する事業者は、その廃棄物が適正に処理されるよう責任を負う必要があります。繊維くずを排出する事業者は、以下の責任があります:
- 廃棄物の適正分類(産業廃棄物か一般廃棄物か、天然繊維か合成繊維かなど)
- 委託する場合は許可を持つ処理業者の選定
- マニフェスト(管理票)による処理状況の確認
- 廃棄物の保管基準の遵守
これらの責任を怠ると、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
マニフェスト管理
産業廃棄物である繊維くずを処理業者に委託する場合、マニフェスト(産業廃棄物管理票)による管理が義務付けられています。マニフェストには紙媒体と電子媒体の2種類があり、近年は電子マニフェストの導入が推進されています。 マニフェスト管理では以下の点に注意が必要です。
- 産業廃棄物の種類、数量、荷姿などを正確に記載する
- 処理業者から返送されたマニフェストを確認し、適正に処理されたことを確認する
- マニフェストを5年間保存する
- 電子マニフェストを利用する場合は、JWNETに加入する
適切なマニフェスト管理は、不法投棄等の不適正処理を防止するために重要な役割を果たします。
適正な処理業者の選定
繊維くずを適正に処理するためには、信頼できる処理業者を選定することが重要です。処理業者を選定する際のポイントは以下のとおりです。
- 必要な許可(収集運搬業許可、処分業許可)を持っているか
- 取り扱える産業廃棄物の種類に「繊維くず」が含まれているか
- 処理施設の能力や処理方法は適切か
- 過去に不適正処理の履歴がないか
- 処理費用は適正範囲内か
特にPCBが染み込んだ繊維くずを処理する場合は、特別管理産業廃棄物の処理許可を持つ業者に委託する必要があります。
まとめ
産業廃棄物としての繊維くずは、特定の業種(建設業、繊維工業)から排出される天然繊維を主成分とする廃棄物です。その処理方法には、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルなどのリサイクル手法と、焼却・埋立処分があります。
環境負荷の低減や資源の有効活用の観点から、可能な限りリサイクルを検討することが望ましいですが、リサイクルが困難な場合は適切な最終処分が必要です。
繊維くずを適正に処理するためには、正確な分類、信頼できる処理業者の選定、マニフェストによる管理が重要です。また、PCBが染み込んだ繊維くずは特別管理産業廃棄物として、より厳格な管理が求められます。
排出事業者は、廃棄物処理法に基づいた適正な処理を行うことで、環境保全と資源循環型社会の実現に貢献することができます。